スーツの上着の注意点。基本のマナーや季節ごとの着こなしを解説
スーツの上着には着こなし方にマナーがあるため、正しく着用することが大切です。夏用と冬用の違いも知っておけば、選び方で迷うこともないでしょう。シワができにくいたたみ方や、クールビズにおける注意点なども解説します。
スーツの上着とジャケットの違い
男性が上着として着る主な服には、『スーツの上着』と『ジャケット』があります。
この二つは、着用シーンやディテールが異なっているため、形状は似ているもののまったく別の物と認識しましょう。
フォーマルかカジュアルか
『ジャケット』は、プライベートで着用されるケースが多い服です。カジュアルかつラフな雰囲気を出せる上、着心地も楽なように作られています。
一方『スーツ』は、ビジネスシーンや公式行事、冠婚葬祭などでの着用がマナーとされている服です。相手や周囲にフォーマルな印象を与えます。
着こなし方に違いがあることも特徴です。ジャケットは単体で着用し好みのパンツを合わせますが、スーツは上着とスラックスを上下セットで着用します。
スタートアップ企業など、近年はスーツではなくジャケットでの執務が許されている企業もあります。しかし一般的に、ビジネスシーンではスーツを着用するのがマナーです。
ディテールにも違いがある
スーツの上着の着丈は、ヒップが隠れる長さです。一方、ジャケットはカジュアル感を強めるため、ヒップが半分程度見える程度と着丈を短くしています。
ポケットの形状が違うことも特徴的です。実用性を重視したスーツのポケットは内側に付いていますが、装飾の意味合いが強いジャケットのポケットは外側に付いているものも多くあります。
スーツとジャケットは、生地の素材からも違いが分かります。スーツには薄めで光沢感のある素材が使われているのに対し、ジャケットには起毛素材を採用しているケースが多いです。
肩パットにも注目してみましょう。ほとんどのスーツには、よりフォーマルな印象を強めるために肩パットが入っていますが、ジャケットには入れないのが一般的です。
基本的なマナー
スーツの上着に付いているボタンとフラップに関しては、以下に解説するようなマナーがあります。
相手や周囲に好印象を与えられるよう、細かい部分にまで気を配りましょう。
ボタンは全部閉めない
スーツの上着を着用する際は、一番下のボタンを開けておくのがマナーです。それ以外のボタンの閉め方は、ボタンの総数により異なります。
二つボタンの場合は、下のボタンを開け、上のボタンのみ閉めましょう。三つボタンの場合も同様に、一番下以外のボタン二つを閉めます。
ただし、三つボタンの中には、1番上のボタンが設計上の理由で閉まらないこともあります。この場合は、1番上のボタンも開け、真ん中のボタンのみを閉めます。
フラップはポケットの中に入れる
スーツの上着のポケットには「フラップ」と呼ばれる上蓋が付いています。フラップは、屋外でポケットにホコリなどが入らないよう保護するためのものです。
したがって、屋外にいる間はフラップを外に出しておく必要があります。逆に、室内ではフラップをポケットの中に入れるのがマナーです。
フラップが何のために付いているのかをしっかりと理解していれば、状況により正しく出し入れできるでしょう。
なお、屋外であっても、パーティーや式典のようなフォーマルシーンでは、フラップを中に入れておくのがマナーです。
上着を脱ぐときのポイント
スーツの上着は、脱がないのが基本マナーです。また、上着の下に半袖のワイシャツを着てはいけません。
外出先で上着を脱いだ際の上手なたたみ方もマスターしておきましょう。
本来上着は脱がないもの
本来、スーツは常に上下セットで着用しなければならないものであり、場をわきまえずに上着を脱いではいけません。
スーツの上着を脱いでも許されるのは、一緒にいる上司や取引先の相手などが先に上着を脱いだ場合のみです。
上司など目上の人と一緒にいるときや、取引先と商談・会議をしているときなど、ビジネスシーンにおいて複数の人と同じ空間で過ごしているときは、マナー違反を犯してしまわないように気を付けましょう。
シワにならないたたみ方
スーツの上着は、無造作にたたむとシワができやすくなります。出張先などでハンガーがない場合に役立つ、シワになりにくいたたみ方を覚えておきましょう。
最初に、上着の内側から両肩に手を差し込み、袖や肩の縫い目を合わせるようにして半分に折ります。そのまま片手で内側からつまむように持ち替え、もう片方の手で上着全体を裏返しましょう。
倒れている上襟を起こしてシワを直し、前立てをそろえます。上着を反転させ、背中の中心と前立てをそろえましょう。
中心に腕を添え、上着を半分に折りたたみ、最後に端の部分などずれている箇所を整えれば完成です。
ワイシャツは必ず長袖を
スーツの上着の下には、長袖ワイシャツを着るのがマナーです。暑い場所で上着を脱げないからといって、半袖ワイシャツを着用してはいけません。
長袖ワイシャツにスーツの上着を着たとき、上着の袖口からシャツの袖口が約1.5cm出ている状態が、スマートな着こなしとされています。
長袖ワイシャツを着ていても、スーツの袖口からシャツが見えていなければ、半袖を着ていると思われる可能性もあるため注意しましょう。
なお、半袖ワイシャツは、クールビズを意識して作られているため、ノーネクタイが基本スタイルです。
夏用と冬用の違い
スーツには夏用と冬用があり、裏地の張り方や、生地・素材の種類が違います。衣替えの時期もチェックしておきましょう。
衣替えの時期
夏用のスーツへの衣替えは、暖かくなり始める3〜5月に行うのがおすすめです。また、冬用への衣替えは、肌寒くなる9〜11月に行うと良いでしょう。
どちらの場合でも、日中の最高気温が20〜25度になるころが目安になります。
ただし、衣替えの時期は日によって気温差が激しく、朝晩に冷え込みを感じても昼間は汗ばむような日も少なくありません。
クリーニングに出すなど、一気に衣替えをしてしまうと、気温差に対応できない可能性があります。天気予報などで様子を見ながら、その日に着る服を決めましょう。
裏地の総裏と背抜き
スーツの裏地は、背中の全面に裏地が施されている『総裏』が基本です。しかし、四季による寒暖差が激しい日本では、暑い夏向けに背中の裏地をなくした『背抜き』が作られるようになりました。
海外から日本へ輸入されるスーツも、夏用は日本人に合わせて背抜き仕様に仕立てられているものが多く見られます。
本来、スーツの裏地は、湿気や汚れなどから生地を保護したり、動いた際の摩擦を軽減したりするために付けられているものです。
背抜き仕様にすることで、これらの機能性は低くなりますが、通気性が良くなることや軽くなることなど、夏に着る上でのメリットが生まれます。
素材や生地の違い
夏用スーツの生地には、薄くて軽いものが使用されています。一方、冬用スーツの生地には、厚くて重いものを採用するのが一般的です。
素材にも違いが見られます。夏用に使われる素材は、、通気性に優れたサマーウールが主流です。夏に使われる素材の一つにリネンやコットンもあります。
冬用に使われる素材もウールが主流で、ツイード・フランネル・ベロアなど、毛足が長い生地が主流になっています。
また、夏用にサマーウールとして使われる羊毛は、毛足の長さや質感を変えて冬用にも使われる、オールシーズンに対応した素材です。
夏でも上着は必要?
近年はクールビズの考え方が広く一般化しているため、夏に上着を着る人は減少傾向にあります。
ただし、社外では必要な場合があることや、ノージャケットでもマナーを守る必要があることは覚えておきましょう。
クールビズであれば必要ない
クールビズとは、「夏の間に軽装スタイルで仕事をしよう」という、環境省が中心となって実施するキャンペーンです。
2005年から始まり、現在は多くの企業で、クールビズに対する前向きな姿勢が浸透しています。
クールビズにおける服装の可否は、環境省が公表する資料により細かく設定されています。この資料によると、クールビズの期間中、上着を着用する必要はありません。
なお、クールビズの期間は、5月1日〜9月30日と示されています。6月1日〜9月30日はスーパークールビズ期間であり、ポロシャツやアロハシャツの着用も可とされています。
出典:環境省におけるクールビズの服装の可否社外では必要なことも
自社でクールビズに取り組んでいても、他の企業ではクールビズスタイルを許可していない場合があります。
前述のように、本来スーツの上着を脱いではいけません。取引先との商談や会議の際は、安易にクールビズスタイルで向かわないよう、注意する必要があります。
特に、初めて取引する相手や、営業で新規開拓する相手は、クールビズに関する情報がないため、スーツとネクタイを着用して接しなければならないでしょう。
ただし、クールビズに取り組んでいることが分かっている相手や「次からはクールビズでも結構です」と伝えられた相手には、クールビズスタイルで訪問しても大丈夫です。
クールビズのマナー
男性のクールビズスタイルは、ノーネクタイ・ノージャケットが基本です。
ノーネクタイは襟が崩れやすいため、シャツは襟がしっかりしているものを選びましょう。
シャツの色で清涼感を出すことも大切です。暑苦しい色は不快な印象を与えかねません。ライトブルーなど、涼しいイメージの色がおすすめです。
また、汗ジミにより見苦しくなるのを防ぐため、ワイシャツの下には必ずインナーを着るようにしましょう。
シャツの襟元からインナーが見えないよう、Vネックタイプのインナーを選ぶことも重要です。
コートを着るときのマナー
寒い時期には、スーツの上にコートを着て移動することも多いでしょう。
コートに関してもさまざまなビジネスマナーがあるため、相手に失礼な印象を与えないよう注意する必要があります。
建物に入る前にコートを脱ぐ
コートを着て取引先を訪れた場合、暖かい部屋に入るまでコートを着ていたいと思う人も多いでしょう。
しかし、コートは室内で着用するものではないため、コートを着た状態で室内に入るのはマナー違反です。
取引先の会社に着いたら、建物に入る前にコートを脱ぎましょう。取引先の会社が複合ビルに入っている場合は、エントランス内で脱いでも構いません。
雨や雪が降っているといった事情で、どうしても屋外では脱ぎにくい場合も、受付で人に会うまでには必ずコートを脱いでおく必要があります。
コートのたたみ方
コートは裏返してたたむのがマナーです。裏返すことで、コートの表地に付着した屋外のホコリや花粉などを、室内に持ち込まずに済みます。
また、商談中に飲み物をこぼしてしまったといった場合でも、裏返しておけば表地を汚しません。
コートをたたむ際は、最初にコートの内側から両肩に手を入れ、そのまま全体を裏返します。前身頃と後身頃がピッタリと合うように意識しましょう。その後、上下を半分に折れば完成です。
脱いだコートの持ち方や置き方
脱いだコートを持ち歩く場合は、前述したたたみ方で丁寧にたたんだ上で、片腕に掛けて移動しましょう。
脱いだ場所に空いたスペースがあっても、許可なく勝手に置いてはいけません。また、重いコートは持ち運びに苦労するため、できるだけ軽めのコートを選べればベターです。
商談時にコートを置いておく際は、自分のカバンの上に置きましょう。この場合は二つ折りでなく、できるだけコンパクトにすると置きやすくなります。
椅子の背もたれや机の空いたスペースにコートを置いてはいけません。相手の許可なしに椅子や机を使うと、失礼な印象を与えてしまいます。
失礼のないように上着の着用マナーを守ろう
スーツの上着には、ボタンの閉め方やフラップの出し入れなど、知っておきたいマナーがあります。
上着を着なくても良いクールビズの時期でも、相手によっては必要になる可能性があるため注意しましょう。
夏用と冬用の違いを知ることも大切です。スーツの上着は、裏地や素材の違いで、夏用か冬用かを判断できます。
スーツの上にコートを着る場合は、建物に入る前にコートを脱ぐことや、脱いだコートを勝手に椅子や机などに置かないことなど、マナーを守ることが重要です。