フォーマルスーツの種類と選び方。シーン別のマナーや着こなしを解説
結婚式や葬式に出席するとき、着ていく服装について悩む人は多いのではないでしょうか。冠婚葬祭や特別な式典では、ビジネスシーンとは違い、フォーマルスーツの着用がマナーです。フォーマルスーツの種類や選び方、シーン別のマナーについて紹介します。
フォーマルスーツとは
まずは、フォーマルスーツの意味や定義についてくわしく解説していきます。場面に適したフォーマルスーツを選ぶためにも、基本的な知識を押さえておきましょう。
格式が高い場で着用するスーツ
フォーマルスーツとは、格式が高い『公式な場』で着用するスーツを指します。
具体的には、授賞式・セレモニーなどの式典、冠婚葬祭などのシーンが挙げられるでしょう。そのような場面では、場にふさわしい上品さ、あるいは慎ましさが必要となるためフォーマルスーツを着用します。
なお、「スーツ」とは上下がセットになっているものを指すため、厳密な意味ではモーニングコート、イブニングコートといった礼服は「フォーマルウェア」に分類されます。
しかし、一般的にはフォーマルスーツとひとくくりにされることが多いため、本記事でもその例にならって呼び方を統一しました。
ビジネススーツとの違い
ビジネスシーンで着用するスーツは、着こなしによっては「フォーマルな装い」といわれることがあります。しかし、実際のフォーマルスーツとは別物です。
まず色は、同じ『黒』であっても、ビジネススーツの場合、少し薄いかグレーがかっており、フォーマルスーツの濃い黒とは異なります。
また、フォーマルスーツの生地はウール素材が一般的ですが、ビジネススーツではポリエステルが含まれているケースも多いです。
デザインにも違いが見られます。ビジネススーツのラペル(下襟)には「AMFステッチ」と呼ばれる縫い目が入っていますが、フォーマルスーツにはほとんどの場合、それがありません。
また、裾に「ベント(切り込み)」がないのも、フォーマルスーツの特徴です。
格式の高い場面でビジネススーツを選ぶと、周囲から浮いてしまうだけでなく、『マナー違反』としてとらえられてしまうため注意しましょう。
フォーマルスーツの種類
フォーマルスーツの種類は、『正礼装』『準礼装』『略礼装』の三つです。
格式の高さが異なり、場面や着用者の立場によって、着るものを変える必要があります。
社会人として、それぞれの種類の特徴と着用場面はしっかりと押さえておきましょう。
最も格式の高い『正礼装』
『正礼装』は、最も格式の高いフォーマルスーツです。
内閣総理大臣や最高裁判所長官の親任式など、特別な式典の場で着られます。
また、一般的な場面としては、葬式や告別式で、喪主のみが着用できます。伝統を重んじる家柄の結婚式で、新郎や両家の父親が着用することもあるでしょう。
正礼装は、昼間であれば裾の長いモーニングコートに、グレーのストライプパンツを合わせます。
夜間の場合には、イブニングコートに、白のベストと蝶ネクタイというスタイルが正礼装です。
セミフォーマルともいわれる『準礼装』
正礼装の次に格式が高い場面では、セミフォーマルともいわれる『準礼装』を着用します。
具体的な着用シーンとしては、結婚式・披露宴などで、主賓クラスとして招待されたときなどが挙げられるでしょう。
昼間に着用する準礼装はディレクターズスーツです。黒または濃紺のジャケットに、グレーベストとグレーと黒のストライプのパンツを合わせるのが一般的なスタイルです。
また、夜間はタキシードに、黒の蝶ネクタイとカマーバンドという腹部に巻く帯を着用します。
一般的に使われる『略礼装』
フォーマルスーツの中では、最も一般的なスタイルが『略礼装』です。結婚式・披露宴・二次会・葬式に参列するときに着用します。
昼・夜を問わず、ジャケットとパンツが共布で、ウール素材を用いたブラックスーツが基本です。
ボタンが一列に並んだシングルのジャケットの場合、ベストを合わせるスリーピースが正式なルールです。
昨今では簡略化されてはいるものの、格式が重視されるシーンでは、ダブルスーツかスリーピースの着用が無難でしょう。
なお、光沢感があるものは結婚式では構いませんが、葬式や告別式にはふさわしくないため着用には注意が必要です。
そのほかにも、スーツに合わせる小物についてのルールが、結婚式の場合と葬式の場合では異なるため、くわしくは後述します。
フォーマルスーツの選び方
フォーマルスーツを選ぶ際は、ファッション性よりも場面に合った上品さや慎ましさが重要です。ここからは具体的なフォーマルスーツの選び方を紹介します。
長く着られるもの
フォーマルスーツは、通常のビジネススーツと違って頻繁に着るものではありません。
そのため『5〜10年後にも着ること』を想定して、生地が丈夫なものを選ぶのがおすすめです。
また、今の流行りを取り入れると、いずれは古臭くなってしまうため、できるだけシンプルなデザインにしましょう。
サイズ感は体形が変わることを考えて、あまりにタイトなものは避けた方が無難です。
ゆったりとした上質な生地であれば、冠婚葬祭のたびに新たに用意する必要がないため、手間もコストもかかりません。
黒の濃さや生地にこだわる
フォーマルスーツでこだわりたい生地のポイントとして、耐久性のほかに色や素材があります。
色はできるだけ黒の濃いものを選びましょう。黒が深いほど格式が高くなり、その場にふさわしい品格が出ます。
逆に色が薄いものだと、周囲の人のスーツの中で浮いてしまうため注意が必要です。
一方、生地の素材はウール100%が基本です。ポリエステルの混じったビジネススーツと比べて質感の良さが際立ちます。
サイズ感を大事にする
近年のビジネスシーンでは、ジャストサイズのスーツが主流です。
しかし先述したように、フォーマルスーツでは流行よりも『5〜10年後も着ること』を重視すべきなので、少しゆったりとしたサイズのものを選ぶと良いでしょう。
オーソドックスなサイズ感であれば、年齢とともに体形が変わってもわざわざ買い替える必要がありません。
また、時代の変化とともに、古臭く感じられることも防げます。
結婚式での着こなし方
ここからはフォーマルスーツを着用する具体的な場面として、結婚式での着こなし方を紹介します。
新郎新婦にとっては一生に一度の特別な日のため、失礼にならない着こなしを押さえておくことが重要です。
立場に合わせてスーツを選ぶ
結婚式では、どのような立場で出席するかによって着用すべきスーツが異なります。
まず『正礼装』は、新郎または両家の父親のみに許されている礼服です。親族や主賓、スピーチを頼まれている友人・知人であれば、できるだけディレクターズスーツやタキシードといった準礼装を選びましょう。
また、一般的な参列者であれば、略礼装であるブラックスーツの着用が基本です。
ビジネススーツでも、一見するとフォーマルスーツの代用として着用可能にも思えますが、色や素材が異なるため、できる限り避けましょう。
社会人として、一着はフォーマルスーツを用意しておくことをおすすめします。
シャツやネクタイは目立ちすぎないものを
結婚式の主役はあくまでも新郎新婦です。そのためシャツやネクタイは、鮮やかな色のものや派手な柄のものはNGです。
シャツは白色の無地で、襟もシンプルなレギュラーカラー・ワイドカラーが無難でしょう。あるいは襟先が前に折れた形のウイングカラーもフォーマルな印象になりおすすめです。
ネクタイはシルバーが好ましいものの、個性を出したい人は、淡色や小さめのドット柄でも問題ありません。
なお、いくら目立たないとはいえ、黒いネクタイは弔事を連想させるため避けましょう。
ただし、ボウタイに関しては、シルバー・ネイビーに加えて黒無地のものでも大丈夫です。通常のネクタイと比べて、ドレッシーな着こなしになります。
靴や小物にもこだわろう
結婚式での格式が高いスーツスタイルには、靴や小物などの細部にもこだわりたいところです。
まず靴はシンプルな黒い革靴が基本と考えましょう。内羽式のストレートチップまたはプレーントゥのものであれば間違いがありません。
ソックスも黒で合わせます。足を組んでもすねが見えない長さのものを選びましょう。
コーディネートに華やかさを加えたい人は、ワンポイントとして胸ポケットからチーフをのぞかせるのもおすすめです。色は白、素材はリネン・シルクがおすすめです。
葬式での着こなし方
もうひとつフォーマルスーツを着用する場面として代表的なのが葬式です。
葬式では遺族に配慮をして、失礼のない慎ましい着こなしをする必要があり、その意味では結婚式以上にマナーに注意をすることが重要でしょう。
ここからは葬式で押さえるべきフォーマルスーツの装いを解説します。
近しい親族以外はブラックスーツ
葬式においても参列者の立場によって、選ぶべきスーツの種類は変わります。
亡くなった方の遺族あるいは近しい親族であれば、正礼装であるモーニングコートの装いが正式です。
ただし、近年ではブラックスーツを着る場合が増えており、必ずしも正礼装である必要はありません。
近しい親族以外の参列者は、ブラックスーツを着用するのがマナーです。良質かつ光沢の少ないウール素材の生地のものを選びましょう。
なお、葬式の略礼装はダークスーツとされていますが、これを着用するのは弔問や三回忌以降の法事のときだけです。
間違っても葬式・告別式では着用しないように注意しましょう。
シャツは白、ネクタイは黒以外NG
葬式ではシャツは白、ネクタイは黒という決まりがあり、それ以外の着用はNGです。
ただし、突然の訃報で弔問に駆け付けるときは、例外的に柄が入っていても許容されます。
いざというときのために、白無地のシャツを会社に用意しておくのも一案でしょう。襟はレギュラーまたはワイドが適切です。
また、ネクタイは光沢がないものを選びます。柄入りのものはもちろん、ディンプル(くぼみ)ができる結び方をしたり、ネクタイピンを付けたりすることも避けましょう。
靴は黒、小物はNG
葬式ではスーツやネクタイと同じく、革靴やベルトも黒くて光沢のないものが無難です。派手な金具が付いたものは選ばないように注意します。
また、ハンカチも無地で白か黒のものを用意するようにしましょう。
結婚指輪と腕時計以外のアクセサリーを付けるのは慎む必要があります。腕時計を着ける場合にも、金属製は避けて黒いレザーベルトのものを選びます。
言うまでもなく、葬式ではおしゃれな着こなしよりも『遺族への配慮』を第一に考えることが重要です。
フォーマルな場では正しい服装を
フォーマルな場では、個性を出したりおしゃれを楽しんだりすることよりも、その場面に合った服装をすることが大事です。
そのためスーツを選ぶときは、『どのような場なのか』『自分はどのような立場にあたるのか』をしっかりと意識します。
シャツ・ネクタイ・靴・そのほかの小物などの細かいルールも、毎回小まめに確認をしていると、次第に身に付いていくはずです。
社会人として、周囲の人に不快感を与えない服装を心がけるようにしましょう。